1.水疱を主徴とする疾患
(1)ウィルス性疾患
1)ヘルペスウイルス感染症
①単純疱疹ウイルス感染症
a. 口唇ヘルペス:口唇、特に粘膜と皮膚の境界部に集まって出現する小水疱が特徴です。単純疱疹ウイルスの口唇への再感染によって生じます。 一週間位で自然治癒するため、特別な治療は必要ありません。
b. ヘルペス性口内炎:多くは6歳以下の小児に好発します。単純疱疹ウイルスの感染によります。潜伏期は1週間前後でその後39℃の発熱、全身倦怠感が出現し、激しい歯肉炎と多数の小アフタが出現します。治療は安静、経口摂取が困難であれば経管栄養や輸液を行います。また二次感染予防のため、抗菌剤を投与が行われます。重症の場合は抗ウイルス薬が用いられます。
②帯状疱疹ウイルス感染症
脳神経あるいは脊髄神経の走行に一致して片側性に発疹を生じる疾患です。小児期に水痘に罹患、そのウイルスが体内の脳・脊髄神経節に潜伏し、その後何らかの原因で免疫力が低下が誘因となり、ウイルスが再活性化されて発症します。神経の支配領域に一致した皮膚・粘膜に小帯状に小水疱が出現します。顎顔面領域では三叉神経支配領域に発生することが多いですが、顔面神経支配領域にも発生します。治療は抗ウイルス剤の投与が有効ですが、顔面神経麻痺を伴う場合は副腎皮質ステロイド薬、ビタミンB12、ATP製剤などが用いられるとともに、星状神経節ブロックが行われます。
2)ヘルパンギナ
コクサッキーウイルスA4の感染により生じるアフタ性咽頭炎です。患者は1~4歳の幼児に多く、2~9日の潜伏期のあと、発熱を初発症状として多数の小水疱が口腔の後部と咽頭に生じます。治療は水分、栄養補給と二次感染予防のため抗菌薬が投与されます。
3)手足口病
コクサッキーウイルスA16による伝染性皮膚粘膜疾患です。、患者のほとんどは1~5歳の乳幼児で、成人にはほとんどみられません。潜伏期は3~5日で、両手、両足、皮膚粘膜に発疹が生じ、口腔では小水疱が出現しますが、すぐに破れて2~3mmのアフタとなります。
(2)皮膚の水疱症
1)天疱瘡
皮膚や粘膜の細胞相互間の結合が失われて、表皮内に棘融解性水疱 を多発する疾患です。
① 尋常性天疱瘡
突然皮膚または粘膜に水疱が生じます。水疱は破れてびらんとなります が、皮膚ではまもなく乾燥して治癒します。口腔では、頬粘膜、口蓋、舌、 下唇、歯肉の順で発生し、水疱は破れてびらんあるいは潰瘍となります。 表皮、粘膜は剥離しやすく、一見正常にみえる皮膚をこすると表皮の剥離 が生じて水疱を形成します。治療は副腎皮質ステロイド薬、免疫抑制剤な どの全身投与が行なわれます。
② 類天疱瘡
症状は天疱瘡に似ていますが、表皮下の水疱形成を特徴とします。口 腔内に水疱を形成するものを粘膜類天疱瘡といいます。粘膜類天疱瘡は 中年以降の女性に多く、粘膜に100%初発します。病変は主として口腔お よび眼に出現し、口腔では歯肉、頬粘膜、口蓋の順で発症し、比較的小さ な水疱を形成し、破れてびらんとなります。治療は副腎皮質ステロイド薬 の全身投与が行われます。