人間が生きていく上で、毎日の食事は欠かせない。しかし、ものを食べることは、ただ単に栄養摂取という機能を果たすだけではない。最近の研究で、よくかんで食べることが、全身の健康に大きく影響することが分かってきた。脳の働きを良くする、全身の筋肉の活力を高める、肥満や糖尿病を防ぐ1など効果はさまざまだ。十勝管内の歯科医が歯と体の健康、かむことの効用について説明する。
かむこと…脳へ刺激
人間がほかの動物と最も違う点は、直立二足歩行により、知性や理性を持ったことです。その役割を担っているのは、大脳新皮質というところで、特に人間だけが発達しています。
脳を活発に働かせるには、まず酸素と栄養(ブドウ糖、たんばく質)を十分に送り込まなければなりません。すなわち、脳への血流量を多くする必要があります。脳への血流量を増やす上で、最も良い方法のひとつが、よくかむことなのです。かむと言っても、回数と強さが重要です。
食物をかむには、大変複雑な筋肉の動きが必要で、使われる箭肉の種類は二十種類にも及び、それらの筋肉の収縮や弛緩(ちかん)がボンフ作用を起こし、血液の流れを強め、顔や脳への血流量を増やします。そのため、かむための筋肉群が「脳への第二の心臓」とまで言われているのです。
脳細胞は神経線推を通じ、全身からの情報(刺激)を受けることにより、活発に働くようになります。全身からの刺激は脳幹部を通過し、短期学習中枢の「海馬」などを刺激しながら大脳新皮実の体性感覚野に達し、前頭実に広がります。
体性感覚野に占める全身の各部分の場所をペンフィールドが調べた結果、口唇、歯牙(しが)、味覚、かむための筋肉群や口腔(こうくう)粘膜など口腔周辺からの刺激が半分近くあったのです。大脳への刺激には、かむことが最も効率的であり、ひいては知性を高める基本となるのです。
鹿児島大学のネズミを使った実験では、硬いえさを与えて飼育した群れと、軟らかい物だけを与えた群れとを比較してみると、学習結果に大きな差がでました。
学童を対象として、かむ回数やかむ力の残さと、知能テスト結果との相関関係を調べた研究では、かむ回数の多い子、かむ力の強い児童の方が成績が良いとの結果も出ています。脳生理学の第一人者である大島清氏は「頭を良くするには、理論的には煎(い)り大豆をガリガリかむことだ」とさえ言っています。学校での学習が午前中に集中することを考えると、朝食にしっかりかみごたえのある食事、さらに糖質を取ることが、脳を活性化する最良の方法と言えるでしょう。
(十勝歯科医師会口腔機能研究会)